ネーミングライツがいよいよ第2段階へ -味の素スタジアムの契約更新を受けて-

公共施設へのネーミングライツでは国内初めての事例として知られている味の素スタジアム(東京スタジアム)の契約更新が今日(11/30)発表された。6年間で総額14億円。過去5年間の契約総額12億円であることから、単年当たりの契約額では大きく違いは見られない。かくいう筆者、今回の味の素スタジアムの契約更新の行方が、国内でネーミングライツビジネスが今後普及していく上での試金石となると見ており、同見解についてはさまざまな場所で言ってきた。契約金額および露出も他案件と比較して大きなこれら案件の契約条件が、施設側から見て極端に悪化(=契約期間の短縮、契約金額の減少など)したなら、今後の案件の募集において施設側に極めて不利な立場にやられてしまいかねなかったからだ。

なお、今回のレポートもこれまでと同様プロ野球の球場およびJリーグのスタジアムを対象とした「球技場」のみを扱っている。


まず、今回の味の素スタジアムの更新の意義について簡単にまとめてみたい。今回の更新には、今後のネーミングライツビジネスにおいて2つの大きな意味があることを挙げておきたい。

  • 契約期間の長期化
  • 単年契約金額の維持

1.これまでの5年間の契約期間が1年延びて、新たな契約期間が6年間となり味の素スタジアムの合計契約期間は11年間となる。今回の味の素の案件は、国内ではじめてネーミングライツが契約延長されたケースに該当する。なお、更新ではないが契約満了に伴い別のスポンサーが契約締結に至った事例は2件ある(神戸グリーンスタジアムのスポンサーはYahoo!BBからスカイマークへ、西武球場のスポンサーはインボイスからグッドウィル・グループへ)。1社が契約更新を含めて10年以上にも及ぶ期間の契約を結ぶということは、スポンサーがネーミングライツは取得目的を満たすに値する仕組みであると認めた、長期間締結のメリットが見出せたと解釈できないだろうか。

2.単年契約金額は従来の2.4億円/年からさほどかわらない金額(約2.3億円/年)で落ち着いたことはちょっとした驚きである。球技場案件での平均単年契約金額は1.5億円弱で(表1参照)、味の素スタジアムはプロ野球のフランチャイズでなく連日露出されるような高い稼働率が期待できないなどなどから、場合によっては2億円を下回る金額で契約が更新されるのではと予想していたためだ。ここからは筆者の想像の範囲ではあるが、新たなスポンサーを募集している県営宮城球場(旧フルキャストスタジアム宮城)の募集金額が2億円であるにもかかわらず3社が応募していることが、味の素スタジアムの契約金額の決定に追い風(施設運営者にとって)として吹いたのかもしれない。

表 1 《各球技場のネーミングライツ契約状況》


2007年春、弊社では既存ネーミングライツスポンサーへのアンケート調査を実施した(ネーミングライツのいま-スポンサーの声からこれからを考える-)。アンケート結果から、ネーミングライツへの高い満足度および既存案件に対する更新意欲の大きさがデータとして現れていたのは、味の素スタジアムの更新を心配していたことはいささか大げさだったのかもしれない。

大阪ドーム(現京セラドーム大阪)にネーミングライツが2006年春に導入されたのを最後に新たな導入が途切れていた球技場へのネーミングライツ。だが、2007年に入り神戸ウイングスタジアム(現ホームズスタジアム神戸)や募集活動に苦戦していた新潟スタジアム(ビッグスワン)(現東北電力ビッグスワンスタジアム)の契約締結が発表されるなど、復活の兆しを見せ始め(表2参照)、2008年から導入されるものが既に発表されるなど2007年はネーミングライツの再出発の年だと言える。募集を発表したにもかかわらずなかなかスポンサーが手をあげずに契約にいたるまで難儀するケースが多かったというのが2007年の特長として挙げられる。

表 2 《各球技場のネーミングライツ契約期間》


現在、球技場のみならず多様な案件で新たな運営費確保の手段としてネーミングライツを募集するケースが多く見られる。だが、これら案件も2007年に契約にどうにか至ったもの同様、さまざまな理由から苦戦することが予想される。これから募集を開始しようと検討している施設運営者は、募集案件はどのくらい露出が期待できるのかなど、案件の特徴に沿った対策を十分に練ってから取り組むことを推奨しておきたい。

味の素スタジアムの契約が大きな見直しも無く延長されたことは、2007年暮れのネーミングライツビジネスおよび自治体による広告ビジネスにおいて良いニュースだと評価したい。今後数年は、新規契約案件の募集と同じくらい、契約延長に対する関心が高まることと思われる。まずは、スカイマークスタジアムおよび、契約延長には該当しないが新たなスポンサー契約を目指す県営宮城球場の動向に注目したい。

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