1.はじめに
出版不況が叫ばれて久しい。同様に書店経営は苦しく、書店数は残念ながら年々減少している。書店数減少の要因に、活字離れのほかにネット書店の普及やコンビニエンスストアなど他業態による書籍販売への進出、携帯コンテンツの充実などが挙げられる。さらに追い討ちを掛けるように、2010 年は電子書籍元年とも言われるようにAmazon社のKindleが国内で手に入るようにもなった。印刷媒体を扱う既存の書店を取り巻く環境は厳しくなるばかりである。とりわけ苦境に立たされているのが、「町の本屋さん」とも呼ばれる小型書店だろう。当レポートでは、苦境にあえぐ小型書店に焦点を当て、小型書店が生き残るためのヒントを見つけたい。
ヒントを見つけるに際し、日本書店商業組合連合会が2006年に発表した資料(『全国小売書店経営実態調査報告書』)のデータを参考にする。調査報告書ではエリアや規模別のデータが詳細に記載されているので、必要であれば元データに当って数値を確認することを強くお薦めしたい。
さて、書店を売り場面積に基づいて分類すると、当レポートの対象とする小型書店を20坪以下のもの(緑棒グラフ、以下同様)、大型書店を201坪以上のもの(青棒グラフ、以下同様)と定義する。すると、回答サンプルから実に50%弱の書店が小型書店に分類され、大型書店はわずか3%強を占めることがわかる(下図)。したがって、昨今の書店数減少の中で、大型書店もさることながら相当多くの小型書店が閉店に追いやられているということが想像できる。
2.集客力低下に苦しむ小型書店
閉店に追いやられる書店が年々増加する中で、経営環境への認識を書店規模別にまとめたのが下図だ。実に9割の小型書店経営者が経営環境の悪化(「やや悪くなった」と「悪くなった」)を認識しており、「悪くなった」との回答は7割を占めている。経営環境が改善した(「よくなった」と「やや良くなった」)と回答しているのは大型書店が25%程度もあるのに対し、小型書店はわずか2%程度しか占めていないという点から、今後も小型書店を中心に閉店が相次ぐ模様が容易に目に浮かぶ。
では、苦境の理由はどこにあるのか。苦境に立たされる小型書店経営者が経営環境悪化の原因に(小型書店が経営環境悪化したと挙げている理由上位5つを多い順に並び替え)、「客数の減少」を最も多く挙げている。次いで、「大型店の出店」や「立地条件の悪化」などが挙がっている。
総じて、集客力の低下が経営環境の悪化に繋がったと把握している小型書店経営者が多いようである。なお、大型書店経営者にとっての経営環境悪化の最大の理由も「客数の減少」であるように、この課題は、もはや書店経営だけのものではなく、出版社を含めた活字メディアを扱う出版界全体に関わるものであり、出版社・取次ぎも含めて解決に取り組むものであることは、あえて言うまでもない。
さて現状の書店が抱える経営課題を把握したところで、書店が売上を伸ばすための方策としてどのようなものが考えられるか。「売上=商品単価×数量」という簡単な掛け算を元に考える。
商品単価は書店によって変えられないのは国内の制度により定められている通りで、価格面での差別化を図ることはポイントカードの導入という間接的な値引き以外には導入することが出来ない。また商品を書店自ら企画・制作することはなく、もっぱら小売に徹するしかないため、流通される商品を裁くことしか施せる策は残されていないのである。要するに、入荷する書籍の販売数量を増やす以外に書店の売上を増やす方策はないのがこの業界の厳しい点である(書籍以外の文具などの商品を扱う方策は対象外とする)。
では、小型書店と大型書店の数量はどの程度異なるか。数量を構成する要素の1 つであり、書店経営者も課題と挙げる「集客力」(以下、入手可能なデータのみを分析対象と検討)に着目して両者の違いに触れたい。なお、集客力をデータ取得できる「立地」と「営業時間」の2 つに分類して進めたい。
まず、小型書店がどのような立地に多くあるのか、大型書店との比較を示したのが下図である。小型書店は商店街・住宅地に多く集まる一方で、大型書店は駅ビル・駅前および郊外への出店が多い。つまり、小型書店は商圏の狭さから近隣住民に顧客ターゲットが限られており立地には恵まれていない。そして、大型書店は乗換え途中や待ち合わせなど利用される機会に恵まれた立地に恵まれている。
このような立地上の違いにも小型書店が売上高の下落から閉店に追いやられる要因として挙げることができるだろう。出勤・帰宅途中の最寄り駅や車通勤での沿道の大型書店に寄って多くの書籍の中からお気に入りの書籍・雑誌を手にとり、自宅の近くでは書店ではなくコンビニに寄って帰るという行動パターンが目に浮かぶ。それぞれの規模の正確な来店客数データはないものの、上記のような想像はあながち外れていないだろう。
さらには、一日の平均営業時間を比較すると小型書店は10.34 時間であるのに対し、大型書店は11.09 時間、そして営業日数では小型書店は無休がわずか20%しか占めていない(約40%が週休1 日)のに対し、大型書店は約80%が無休で営業している(大型書店で定休日を定めているのはわずか1%強)。
生活パターンが多様化する中で、限られた時間しか営業できていないことは機会損失を招いており、それは結果的にネット書店への顧客流出に繋がるわけでもある。ただ、従業員の人数やコスト面から制約のある小型書店が営業時間の延長を行うのは恐らく収益上メリットが見出しにくい。
したがって、闇雲に時間を延長すればよいわけではなく、まずは主とする顧客ターゲットに合わせて営業時間を調整するなどの取り組みをしてみてはどうだろう。夜型の人が多い地域にある小型書店であれば営業時間を遅めにずらしたり、週末に人の動きが多い立地であれば週末は営業するなどのように極めて当たり前と言えるようなものであれば、ここから取り組むだけでも違いが生じるはずだ。
3.品揃えでも苦境に立たされる小型書店係
小型書店は店舗面積が狭いため販売できる書籍の数は量・種類共に限られ、ネット書店の強みとする「ロングテール」には太刀打ちできない。だが一方で、「ロングテール」の対極にある「ヘッド(=売れ筋)」が充実しているかと言われると、そうとは限らないという事実を下図が示している。小型書店の約7割には、「ヘッド」に相当するベストセラーがほとんど入荷されていない。
希望通りに入荷することはほとんど皆無に等しい。したがって、店舗面積という物理的制約からロングテールが実現できないばかりか、ヘッドの部分の充実も図れず、中途半端な品揃えを強いられているというのが小型書店の実態なのである。品揃えが悪ければ、売上向上ばかりかそれ以前の集客も期待できないという最悪の状況に陥っているわけで、大型書店やネット書店が小型書店よりも好まれることがここで示される。
4.小型書店が目指す道
では、大型書店と比較して「立地」や「売り場面積」、「入荷」など不利な条件下で経営を強いられる小型書店は、どのような道に活路を見出せばよいか。右図は各書店経営者が考える生き残り策を示している。図によると、規模に関わらず「地域密着化」を書店の生き残り策として挙げている書店経営者が多い。
確かに、地域との関係強化は書店に関わらず多くの業界で取り組まれる方策だが、強化したから売上に貢献するかと言えば、その取り組み内容・効果は極めて曖昧としたものである。「地域密着化」とは具体的に何をするのか。店内での読書会なのか、作家を招いてのサイン会なのか。残念ながら、今回参考としたデータからは具体的方策が見つからなかったものの、「地域密着化」の先にある何をするかまで踏み込むことは極めて重要な点であることを指摘したい。
筆者はむしろ、売り場面積、立地と大型書店に比べて不利な条件に置かれている小型書店が活路を見出すものとして、2 番目に多くの回答が寄せられた「外商強化」に可能性を見出したい。
事実、小型書店経営者は「外商強化」による売上増大効果を期待して、右図の通り外商を大型書店と比較して積極的に取り組んでいる(大型書店は外商がなくても経営が成り立つ上に、来店客数が多く店頭での収益が大きいために外商比率が低いとも解釈ができる)。なお、図が指す割合とは書店の売上高に占める外商の売上を示す。
書店の外商で真っ先に想起されるのが、学校など教育機関向けの教科書販売である。毎年、一定数の大量注文が見込めるのだから、書店にとっては大変魅力的なサービスである。だが、教育機関向けの外商とて未来永劫収益が期待できるサービスではないことを書店経営者は認識しておかなければならない。書店の脅威として冒頭で挙げたAmazon社のKindleのような電子書籍端末には、テキストを端末にダウンロードして重い教科書を何冊も持って通学することから開放されるという強みがある。
このメリットが認知・評価されると、書店の外商が一気に縮小する可能性は十分考えられる。実際、アメリカではKindle に教科書をダウンロードして利用している学校も存在しており、日本でも近い将来アメリカと同じような動きが見られる可能性は否めない。
アメリカのような悲観的なシナリオが脳裏をかすめるものの、教科書など教育機関向け以外にも、近隣の介護施設や病院から図書の注文を受け付けて配達するサービスなど書籍・雑誌を読みたくても読めない人からの注文を受け付ける仕組みを構築し、埋もれた顧客の獲得・維持を実現する方策を進めていく方策を推奨したい。
これらの顧客は、書店に足を運んだりネット書店から購入することは難しく、入荷に多少の遅れが生じても他店との取引を選択する可能性は、自由に行動できる顧客に比べて低い。近隣住民を主なターゲットとしていた従来からの取引を保ちつつも、かつては書籍に親しんでいた顧客の呼び戻しに注力するのはどうだろう。近隣の埋もれた顧客との関係構築・強化に「地域密着化」と「外商強化」を兼ね備えた新たな採るべき方策を見出せよう。
5.まとめ
現制度では、本の販売価格を書店が独自に決定して販売することは認められていないため、書店が勝負するのは「数」の部分に限られる。「数」とは、当レポートで扱った「集客力」や「品揃え」が構成するものである。これらはいずれも大型書店やネット書店の後塵を拝するものであり、小型書店が「数」で挑んでも勝負にもならない。
ならば、書店としての独自性を出して、これまでの近隣住民だけを顧客ターゲットとするのではなく遠くからでも足を運んでもらえるような店作り、書店に足を運びにくい高齢者のための御用聞きサービスを展開して埋もれた顧客を開拓するというような差別化を図るしかない。各書店が持つ資源と制約条件の下、小型書店を取り巻く大型書店やネット書店などライバルとの戦いに向けて、早急に手を打つべきである。閉店を避けるためにも小型書店経営者は「今そこにある危機」に真正面から戦う覚悟をしなければならない。
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