鎌倉市が売り出していた「由比ガ浜」などの海水浴場のネーミングライツが落札された。10前後の個人・団体が入札に参加し、落札をしたのは鎌倉のお土産として人気の鳩サブレーを販売する豊島屋だ。
落札金額は1,200万円/年(×10年)。プロスポーツ施設のようにテレビなどで紹介される機会は少ないが、年間100万人以上の来場が見込まれることからお値打ち価格での落札なのではないだろうか。
名称未定でのネーミングライツ契約
さて、メディアの発表によると、入札動機は豊島屋の広告したいのではなく妙な名称がつくことを妨げたかったからとのことだった。また、ビーチの名称は未定とのこと。これから市民からの公募を通じて名称を決定する計画の模様だ。
確かに、一見すると豊島屋の落札は市民からの大きな反対意見が起こりにくい妥当なもののような印象だが、一方でどこか腑に落ちない。
だいたい、ネーミングライツが「妙な名前がつく」可能性が高いものと一般的に認識されていること。妙な名前がつくのを防ぐために入札した豊島屋は、市民からすると正義の味方のような存在だ。地元企業が落札したのだから、それこそ市民は胸を撫で下ろしたことだろう。確か、泉佐野市が市名を売却すると発表したときも、外国企業の名称になったら問題があるのでは?などの意見がメディアを中心に見られた。ネーミングライツの応募条件に制限を設けない限り、妙なスポンサーが名乗りを上げたり、認め難い名称で入札する可能性はあるだろう。
けれども、このような心配は審査で評価しなければ回避できる。筆者がスポンサーの審査員として携わった経験では、スポンサーの適性(社会性や財務状況など)を評価·審査したし、仮名称発表後に住民からの意見を反映して名前の変更をスポンサーにお願いしたこともいくつかある。審査員や自治体に対する信頼がまだ十分築けていない点が、「妙な名前がつく」という心配を生み出しているのだとすれば、これこそネーミングライツが改善すべき最大の課題と言える。
活用案未定でのネーミングライツ契約
また、もう1つ気になったのが、ネーミングライツの活用案に関して豊島屋は特に計画していないこと。豊島屋同様、日本ではネーミングライツを広告活動の一環として積極的に活用していこうという姿勢がとかく見えにくい(ネーミングライツの先進国アメリカではスポンサーのショールーム設置など積極的)。これまた筆者の経験だが、ある審査委員会でスポンサー候補に「ショールームを設置する権利を提供する替わりに、もう少し入札金額を上げることができるか?」と質問をしたところ、「ネーミングライツを通じて広告活動を強化したい訳ではないのでショールームは考えられない」という答えを得た記憶がある。
豊島屋の社長の言うように、社会貢献的な意味合い、さらには自治体とのおつきあい的な意味合いからネーミングライツを取得する事例がここ最近は特に強まっている。別に、積極的にネーミングライツを活用しなければならないというわけではないが、せっかく取得した権利を大いに活用してそのメリットをスポンサーが享受し、長期契約することも自治体や住民への社会貢献の1つだとも考えられなくもない。
広告活動には活用しないと現時点で豊島屋は言っているが、鳩サブレーの形をした浮き輪を海岸で販売し鳩サブレーのファン獲得·販促強化を図ってみるなどは一考に値するのではないだろうか(かなり無責任な提案)。妙な名前からの防衛だけがスポンサーが住民などから愛される術ではない。ネーミングライツを介して地元などに溶け込み愛される存在になっていくことも術である。
振り返り
「名称はこれから募集します」という今回の提案は、市民を巻き込むとともに波風を立てない新しいネーミングライツのカタチを提示したと評価できる。だが同時に、ネーミングライツ取得動機に社会的な意味合いを強めることでその存在意義は何なのかということを考えさせられた。
ネーミングライツが日本で本格的に導入され始めて約10年経ったが、誤解がまだ残されているなど改善点は山積みであり、今後の導入には住民·スポンサー(買い手)·自治体(売り手)のメリットを最大化するための仕組み作りが一層求められる。
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