勢いを増すネット空間での「クチコミ」-リアルな「口コミ」となにが違うのか-

1.はじめに

ここ数年、ネットの世界では「クチコミ」が高い注目を集め続けている。人々の直接の会話を通じて発生する「口コミ」はネットが発達する以前から大きな影響力を持つ存在だったが、ネットの世界で「クチコミ」がこれほどまでの注目をなぜ集めているのか?当然のように使われている「クチコミ」というキーワード。しかし固有の特徴はいささか曖昧で、「口コミ」との違いが見えてこない。そこで、リアルな「口コミ」とネットの「クチコミ」の違いについて特徴を簡単にまとめてみよう。

2.「クチコミ」と「口コミ」の違い

下図の切り口に基づくと、クチコミ(ネット)と口コミ(リアル)の違いが見えてくる。

クチコミと口コミの違い

2-1.発信の形

クチコミは、一度情報を書き込むと削除しない限りサイトが情報を発信し続ける。しかし、口コミは人の「口」を介するため、発信者が情報を発するアクションを取らない限り情報は広がらない。発信の形では、クチコミがプッシュとプル(受信者から接触)の両方を兼ね備えるのに対し、口コミはプッシュが主である。

2-2.発信者との関係

ネット上での知名度・影響力が強い発信者の情報は伝達しやすいものの、発信者の表情・人柄は見えにくく一般には人的要素はクチコミ発生過程で大きく作用しない。しかし口コミでは、普段の付き合いなどを通じ発信者の人柄などを把握しており、「この人の話なら」という形で受け入れて口コミを発生させるか否かを判断するケースが多い。

2-3.情報伝播の形

ネット上でのWeb2.0の進展(情報流通の双方向化)により、クチコミでの情報の伝わり方は極めて複雑だ。blogではコメントのほかにトラックバックを飛ばし(合い)、情報はとめどなく広がっていく。翻って口コミは、基本的に情報は樹形図のように発信者からじわじわ広がり、発信者の人脈に頼る部分も大きい。

2-4.受信者

クチコミは知人の他に見ず知らずの他人がアクセスし、そこからクチコミが形成されていく。しかし、口コミは、リアルな人間関係に限られた伝わり方を果たす。結果的には全くの他人に伝わるだろうが、経路・時間においては圧倒的にクチコミのほうが短く・早い。

2-5.真偽の確認

世の中に流れる各種情報の真偽の検証はとかく難しい。クチコミでは情報源の追求および虚偽の訂正は決して無理な話ではない。噂の検証は各種ソースを当たることにより可能だし、被害者自ら誤解を晴らすことも可能である。しかし、口コミでは発信者の発言が形として残りにくく、また情報が形を変えて伝達されることや、虚偽を覆すには多大な労力が求められる点が挙げられる。

2-6.つっこみ

クチコミではつっこみを入れることができる。ある人が管理しているサイトに全くの他人がアクセスし、コメントを残すというもの。つまり、発信・受信の過程でのつっこみを通じて情報を練り上げられていくことができる。しかし口コミではつっこみは情報発信者に対して情報を受けた時点で行われるのが大概のケースで、情報が練り上げられるわけでなく中には途中で情報が加工されて変形していく可能性もある。

3.クチコミとの付き合い方

クチコミは情報が伝播する範囲が口コミよりも広い。そして、クチコミが双方向のコミュニケーションとしての地位を確立していく中で、他人同士のコミュニケーションが成立する機会を増やし、またつっこみなどを経て正しい(と思われる)情報を伝えるケースがますます増えていくだろう。こうした特徴を持つクチコミは、ネットの活用を計画している企業などには情報が迅速かつ広範囲におよぶために極めて有効なツールとして活躍する。競争力強化もしくは有事の火消しにおいて極めて重要な存在として力を増すと思われるクチコミの特徴を理解し付き合うことがこれからますます重要となってくる。