ネーミングライツスポンサー募集で苦戦するワケ -札幌ドームの事例を参考に-

2024/1/10 「札幌ドーム、ネーミングライツスポンサー募集で2度目の正直なるか?」を緊急投稿。

ネーミングライツは市民権を獲得した仕組みと言えるだろうが、一方で相変わらずスポンサー募集はしてみたものの苦戦を強いられる施設が多いことは見逃せない。例えば、昨年末に発表された、札幌ドームへのネーミングライツの導入。何度か仕切りなおしをしてはいるものの、残念ながら今のところ契約には至っていない。年間来場者数が300万人弱を記録する人気施設にも関わらずだ。先日開催した弊社主催のネーミングライツビジネス関連セミナーでも札幌ドームの募集がうまく行かない理由をケーススタディとして取り上げ、参加された方には一定の理解をいただけたものと思う。

ここでは、先日のセミナーの一部を紹介することも兼ねて、札幌ドームが募集で苦戦している理由を3つ挙げ、募集を検討している施設の参考としてお役立ていただきたい。

  1. 募集条件が厳しい
  2. 一発目の募集時期が悪い
  3. 募集要項にアピール力が欠ける

募集条件が厳しい

提示された応募条件は「5億円/年×5年」。この条件には厳しいという意見が多数出ている。たしかに、この条件は昨今の経済状況を鑑みると正直なところ厳しい。ただ、どのくらい厳しいかと問われると「なんとなく」や「国内のネーミングライツの中では最高額(福岡 Yahoo! JAPANドームと同条件)」という回答が出る程度なのではないか。ではどの程度厳しい条件なのか、「有力企業の広告宣伝費」のデータを参考にしてみる。すると、直近のデータで年間5億円以上の広告宣伝費を費やしている企業(連結)の数は450社程度。さらに札幌・北海道と地縁があるか(「ある」必要性は決して無いが)、スタジアム広告に関心があるかという条件で絞り込むと、最終的にはその数は随分と絞られる結果になるだろう。これら絞りこまれた候補企業が首を縦に振らない可能性は極めて高く、そもそものパイのサイズが小さい点はスタートからつまずく大きな理由である。

一発目の募集時期が悪い

契約に至らない場合は再募集するというケースが多々見られるが、概して随分と条件を落として再募集するケースは数多い。中には再募集の際に半額にまで落とすものもあり、「はじめの金額はなんだったんだ?」という指摘が入りそうなものもある。

さて、募集のタイミングについて意識していない応募者も多いのではないだろうか?実は募集タイミングは大変重要なものであり、そのタイミングの難しさから長期的な計画に基づいて取り組むべき仕組みだと言える。札幌ドームの場合、募集開始のタイミングは長期休暇の直前(12/16-1/28)で正月休暇を挟むというものであった。ただでさえスポンサー候補にとって忙しい時期である上、年末にかけて様々な経済関連のニュースがリリースされる時期であることから、募集告知情報が霞んでしまう可能性が高い。また、大型連休を挟むとネーミングライツへの関心が普段から高い企業は連休を挟んで検討するものの、そうでない企業では連休を挟むこともあって検討を当初から断念する傾向にある。さらにタイミングという観点では、企業の年間広告予算が確定したあとに高額のネーミングライツ案件を募集したところでスポンサー候補からは「年間予算が確定したため見送らせていただきたい」との回答を得ることがあることも念頭において、募集計画を立てたいところだ。

タイミングを誤り再募集ということとなると、一気に買い手優位となってしまうことから、募集に際しては一発勝負の心意気で臨むべきである。冒頭のように、買い手がつかずに一気に半額に値下げするというような事態は避けたい。

募集要項にアピール力が欠ける

近年の募集要項を見ていると、標準的な雛形のようなものがなんとなく出来ていて、多くの募集者はそれに情報を入力して募集告知を行っているように見受けられる。札幌ドームも同様だ。しかし、札幌ドームのものはいかんせん資料が無味乾燥すぎる印象を受けた。ワードに基本情報を入力したに過ぎず、札幌ドームの外観写真などは一切紹介されていない(HPを参照して欲しいというのであれば、それはそれで幾分不親切な気も)。例えるならお見合いの際、データ情報だけでは相手からのアプローチは限られ、写真を付けるとアプローチが増えるのをイメージすれば、これ以上は敢えていう必要はない。

とにかく、札幌ドームから発信する情報が限定的でセールス的要素に欠ける点は大いに改善の余地がある。札幌ドームが今後、どのような取り組みで募集をかけてくるかはわからないが、成約のためには応募者の立場に立ち、精一杯アピールすることが賢明だ。

札幌ドームへの提言

6/5付けの毎日新聞によると、札幌ドームを利用している日本ハムファイターズはネーミングライツの選考に参加させてもらいたいと要望を出している。一方の札幌ドームは、現時点では拒否の意向を表明している。この相違については、個人的には日本ハムの要求は認められても良いと理解している。札幌ドームの拒否理由として「応募企業の内部情報が盛り込まれている」とのことであるが、選考に携わっている自身の経験から、選考において極めて神経質になるような情報を扱うことはなく、どの情報をもって拒否しているかは理解出来ない。また、現状で応募してくるスポンサーがない以上、日本ハムファイターズの企画·営業力を頼りに手をとりあって札幌ドームへのネーミングライツの導入および安定運営に取り組むことこそが必要なのではないだろうか。

ぜひ、札幌ドームには柔軟な姿勢を見せて、ゴールを実現してもらいたい。

既存の導入者の取り組みへの提言

ネーミングライツは市民権を得た仕組みだとは冒頭で記したとおり。だが導入に苦戦しているケースも多い事実は見逃せず、今後は導入の苦戦および既に導入している施設が契約更新する際に苦戦することを回避するためには、ネーミングライツの導入メリットを導入実績のある施設が幅広く発信していく必要がある。取得企業には何らかの目的(販促強化、社会貢献、地域との密着度強化、人材採用など)があって取得するわけであり、少なくともその目的が果たせているのかどうかについては定期的にヒアリングし、至っていないならば改善協力を惜しまないほか、経過状況などを積極的に発信していくことが望ましい。ネーミングライツという仕組みに対するスポンサー候補の理解の高まりこそが、ネーミングライツの長期的な繁栄につながっていく。

したがって、既存の導入施設の運営主は今からでも遅くないので、スポンサーにヒアリングを行うなどし、効果などについて積極的に発信していってはどうだろうか。

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