札幌ドームがネーミングライツスポンサーを募集することを今日(2024年1月9日)発表した。
2011年にも募集をかけたものの、そのときは残念ながら成立できなかった。今回は2度目の挑戦なわけで、担当者としては「今回も成立しませんでした」は何が何でも避けたいところ。
このような担当者の想いが反映されたからなのか、前回と比べて契約条件は随分と緩和されている。
前回(2011年) | 今回(2024年) | |
契約期間 | 5年 | 2-4年 |
契約金額(年間) | 5億円 | 2.5億円 |
契約金額(合計) | 25億円 | 5-10億円 |
かつて、わたしはネーミングライツ導入のコンサルタントとしていくつかの施設の導入に売り手・買い手側の両方についてサポートをしたことがあり、そのときの知見などは当サイトや各種メディアで発表させてもらった。
過去に執筆したネーミングライツに関するレポートは、文末にリンクを載せているので、興味があればそれらを参照ください。
さて、前回の2011年に札幌ドームがネーミングライツの募集を行った時、その募集の仕方などについてエールを込めたレポートを発表した(「ネーミングライツスポンサー募集で苦戦するワケ -札幌ドームの事例を参考に-」)。
そのときの指摘点は大きく次の3つ。
- 募集条件が厳しい
- 一発目の募集時期が悪い
- 募集要項にアピール力が欠ける
今回は改善されているかという観点などに基づいて、今回の募集について簡単に考えてみよう。
募集条件が厳しい
金額、契約期間ともに、前回と比べて厳しさは緩和された。
しかしながら、国内の他の施設比較したら果たして札幌ドームの提示している条件は妥当なんだろうかといささか疑問でもある。
参考までに、いくつかの競技場へのネーミングライツ導入条件を下記の通り紹介してみる。
札幌ドーム | エスコンフィールド HOKKAIDO | 味の素スタジアム | 日産スタジアム | |
所在地 | 北海道札幌市 | 北海道北広島市 | 東京都調布市 | 神奈川県横浜市 |
ホームチーム | コンサドーレ札幌(Jリーグ) | 日本ハムファイターズ(NPB) | FC東京(Jリーグ) | 横浜Fマリノス(Jリーグ) |
契約期間 | 2-4年間 | 10年間 | 5年間 | 5年間 |
契約金額(年額) | 2.5億円 | 5億円 | 2.3億円 | 1.2億円 |
契約金額(合計) | 5-10億円 | 50億円 | 11.5億円 | 6億円 |
確かに、同じ北海道のエスコンフィールドHOKKAIDOは、札幌ドームが提示している条件よりも強気であり、札幌ドームの提示している条件は控えめに映る。
しかしながら、首都圏にあるJ味の素スタジアムや日産スタジアムと比べると強気に映らざるを得ない。
今回は速報としてまとめているのでそれぞれのスタジアムの年間動員数のデータは取っていない。しかしながら、感覚的に評価するのであれば、札幌ドームは味の素スタジアムや日産スタジアムのようなJリーグのチームをホームチームとすることに基づくと、算出のベンチマークとして同じ北海道のエスコンフィールドHOKKAIDOとするのは少々違和感を感じざるを得ない。
仮に提示している金額での契約を希望するのであれば、スポンサーメリットへの工夫を通じた契約締結を目指すと良いのかもしれない。
札幌ドームが提供できるスポンサーメリットは何があるか。名称を施設につける以上の価値をスポンサーに感じてもらい、当初の2-4年の契約期間を延長してもらえるような長期的視点が欲しい。
なお、札幌ドーム作成のご案内資料によると、資料請求すると期待効果や取り組み、アフターフォローなどについて記したものが手に入れられるようなので、資料内できちんと伝えられているとスポンサー候補の検討に追い風が吹くことが期待できる。
一発目の募集時期が悪い
前回の募集は年末年始休暇を挟んだ年末に発表されたと記憶している。
それに対し、今回は年明けと休暇での検討中断を避けた時期の設定を行っている。札幌に住んだ経験がないためあくまでも想像の範囲にしか過ぎないが、冬の北海道で屋外露出も図られるような媒体の営業を行った時、スポンサーの抱く媒体に対する印象に悪影響は生じないだろうか。雪が被っていて、ドーム外の露出が期待しにくいなど。
いっそのこと、秋頃に見学会を開催するようなスケジュールで募集をかけても良かったのかもしれない。
土地勘のない立場での無責任な印象ではあるが、スポンサーの立場に立つならば、天気の良い時期に施設を見学して良い印象を持って社内に提案するほうが話を社内で進めやすいように感じてしまった。
募集要項にアピール力が欠ける
今回の募集案内および札幌ドーム作成のご案内資料を見ると、ドームの写真などが多く使われ、どの場所に掲出されるか随分とわかりやすくなった。
12年前に記した「ネーミングライツスポンサー募集で苦戦するワケ -札幌ドームの事例を参考に-」では、「ワードに基本情報を入力したに過ぎず、札幌ドームの外観写真などは一切紹介されていない」との記述をしていることを踏まえると、改善が見られたと評価できる。
けれども、この12年で見せ方に関わる技術は大幅に進化した。
写真を紹介するのは、13年前でも他の施設がやっていた内容だ。
したがって、非常に厳しい言い方をすれば、札幌ドームは12年前の他施設と同じレベルの見せ方に追いついたと言えなくもない。
動画で見せるのはもはや標準であり、動画を紹介するだけですらスポンサー候補へのアピール力は十分とは言えない。
例えば、施設の中にスポンサー候補の看板を当てはめられるような動画ツールを用意し、スポンサー候補の担当者が実際に看板を掲出したらどのような見栄えになるのかイメージしやすくし、社内へも説明がし易いような仕掛けを提供しても良い。
いかに自分たちの売り物を魅力的に見せて、スポンサー候補に提示条件が「お得」と感じてもらえるか。
ネーミングライツはここに尽きる。
まとめ
文章をここまで読み直すと、辛口に感じるのは否定できない。
別に札幌ドームに対して個人的な感情はなにもない。
しかしながら、かつてネーミングライツビジネスを手掛けていた者として、知恵を出す施設運営者の苦労が想像されるだけに、どうしてもその役にどうにか立てないものかと口を挟んでしまわずにはいられない。
札幌ドームは北海道ではトップレベルの規模を誇る施設であり、様々な興行を行う箱としてこれからも安定して運営されることが、札幌市民を中心とした人々の文化的生活を送るために重要なことである。
市民の生活の質維持という観点を含め、今度こそは札幌ドームにはネーミングライツ契約締結に至って欲しい。
※アイキャッチ画像は札幌ドームのご案内より
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